長野県の酒米と酵母と水と

長野県の酒米と酵母と水と

長野県の酒米

長野県農事試験場(現長野県農業試験場)で酒造好適米の育成がはじまったのは昭和初期のことです。当時、県外の酒造好適米に頼っていた長野県ですが、太平洋戦争における米不足を契機に、県内における独自品種の栽培に力を注いでいくことになります。「信交190号」のほか昭和14(1939)年には「たかね錦」が、17年後には「金紋錦」が品種登録され、広く長野県内で栽培されるようになります。その後、「しらかば錦」「美山錦」「ひとごこち」が生まれ、これらも全国で愛される高品質な酒米として知られるまでになっています。令和2(2020)年には新たに「山恵錦」が品種登録されましたが、さらなる良米を求めてその歩みはとどまることはありません。

長野県の酵母

日本酒造りに欠かせない微生物「酵母」。糖をアルコールに変え、香気成分などを生み出す役割を担い、地方自治体が開発する酵母、日本醸造協会が頒布する「きょうかい酵母」、大学などが分離する酵母、蔵つき酵母などがあります。長野県では、長野県食品工業試験場(現長野県工業技術総合センター)により、昭和43(1968)年に「NP1(長野ピンク号)」、その後「長野酵母C(アルプス酵母)」「長野酵母D」が生まれています。長野酵母C、長野酵母Dはカプロン酸エチルに由来するデリシャスリンゴのような甘い香りが特徴。徴。令和元(2019)年には、酢酸イソアミル由来のふくらみのある香りとリンゴ酸由来の酸味の味わいが特徴の「長野酵母R」が誕生しています。また、きょうかい酵母のうち「7号酵母」は長野県の酒蔵で発見されたもので、全国でも多く使用されています。

長野県の水

大地を潤し酒米を育む水、酛や醪に加える仕込み水。水は酒造りにはなくてはならない大切な素材です。一升の日本酒を造るためには、その約20倍もの仕込み水が必要とされていて、水の良し悪しが日本酒の品質に多大な影響を与えるといって過言でありません。仕込み水に求められるのは、アルコール発酵を促進するカリウムやマグネシウムなどを含み、逆に日本酒の味を悪くする鉄分などをほとんど含まない天然の湧水。長野県の酒蔵も多くが湧水を用いています。また、硬水は力強く、軟水はやわらかな日本酒になるといわれています。長野県の湧水は中硬水から軟水がほとんどですが、なかには超軟水や硬水を用いる酒蔵もあるので、水で日本酒を選ぶのも一興です。

参考文献:『信州の酒の歴史』(長野県酒造組合、1960年)